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2008年03月14日

6 随縁

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翻羽翼后

6随縁


 馬車の中は柔らかな光沢のある布で飾られていた。至るところに精緻な飾りがされていて、おとぎ話に聞く月からくる車もこのようなものではないかと思えた。
「怪我はないか?」
 歌は頷いた。
「巻き込んでしまって悪かった。あいつを捕らえねばならなくて」
 男は縄で縛られ、転がされていた。
「他の人は?」
「君だけでも助けられてよかった」
 祖母や村の人たちの顔が浮かんだ。
「この人が」
 驍は眉をひそめた。
「あまり暴れなさんな。密室で火術使うと悲惨だぞ」
 御者台から声が聞こえた。
「すみません」
 術。先程の斧をここで出せばどうなるか。歌でも想像がついた。
「私は驍将真という。昴主さまよりこの一帯を預かるものだ。最近、国境の辺りで火付けが多く、探索をしていた。何か村が襲われた理由はわかるかね?」
「村は普通の村でした。若い人はいなくてお年寄りばかりでしたけど」
「この男たちはどうも何かを探しているようだったからね」
 男は目を覚ました。
 状況が分からないように左右を見る。歌で視線を止めた。
「私は帝の命によってここにいる。さっさと縄を解き、娘を渡せ」
「昴国は法で治められている。罪過を見過ごすことはできない」
「ふざけるな」
「もし貴公の語ることが真実ならば名を明かされよ。しかるべき筋をあたり、身分が分かれば、対応も違ってくる
「最初からそういえ。南家五徳だ」
「南家に問い合わせしましょう。その前に、焼き討ちをした理由をお聞きしたい」
「それは」
 五徳は再び歌を見る。
「その娘を捜し出すためだ」
 歌は首を横に振った。自分には狙われる訳はない。と思う裏で、五徳を相手にしたときの声と、伴う術が思い出された。
「彼女は何者ですか」
 不意に馬車が止まった。
 御者台から声が響く。
「追っ手だ」
「数は?」
「数はいいんだが、まずいな。特に俺と御曹司が。回りに火つけられてやがる」
 五徳は笑った。
「火行陣に入ったな。素直に娘を渡せば、許してやっても構わんぞ」
「火行陣?」
「確か陣内にある燃える物を片っ端から燃やす陣だ。人間が燃えるのは最後だが、その前に火に包まれておしまいだ。あつ、回りの枯れ草が燃え始めてるぜ」
「分かった」
「鴻は彼女を連れて逃げてくれ」
「どうするつもりだ」
「目的は、彼女と五徳殿だろう。切り離せば人手を散らせる」
 御者台から中に入ってきたのは浅黒い肌をした長身のやせた男だった。黒い道服を身につけ、乱れた髪は長く帽子を目深に被っているせいか表情が見えない。
「お嬢ちゃん、俺は鴻という。御曹司、驍さまに仕えるものだ。ところで、あんたどのくらい術が使える。火行陣の崩し方はしらんか?」
 歌には分からない事だった。
「その娘は術をしらん。無駄だ無駄」
「しらんのにあれか。天性か、そりゃまた狙われもするな。御曹司、組み合わせは俺と五徳殿、御曹司とお嬢ちゃんだな」
「あの風を使う術ならすぐに離れられるはずだ」
「いやいや五徳殿はこうして静かにされている方ではないよ。火車牽きの五徳殿といえば」
「その名は止めて貰おう」
 五徳の声には今までと違うものがあった。今までの上からの命に従う小人という印象はなく、腹の底からの声だ。
「失礼。だが、今ので分かっただろう。五徳殿は、こうしてとらわれておいでながら我を通そうとされた。そういうことだよ。余力を隠されている。最悪、捕まったのもわざとではないかな」
「買いかぶりすぎだ」
「ということで出し抜かれそうなので、術師は術師で押さえることにする。まあ、左道の輩である俺と、方士たる五徳殿と比べては困るだろうがね。ここでちょいとばかり強い術で真っ直ぐ火行陣を破る。そこを一気に御曹司はお嬢ちゃんと走り抜けてくれ。俺は五徳殿を連れて、術で逃げる」
「歌どの。こちらに。馬で一息に逃げます」
 驍にいわれるままに歌はついていった。馬は何かにおびえているようだがよく訓練されているのか、静かにしている。
 驍は馬車と馬を繋ぐ綱を外し、馬に乗った。手を差し出し、歌を引っ張り上げる。そのまま馬は走り出した。
 目の前には火の壁と化した木々が見えた。
 歌は震えながら、火の壁を見た。先程のように火で焼かれるか焼かれないか自信はない。

 わずかに風を感じた。それは馬車の方から優しい風が吹いている。その風は少しづつ強くなっていく草花をわずかに揺らすような風から、地面に押しつけるような風に。
「大丈夫。鴻はよい男ですから」
 火は風を受けて勢いを増してますます高くなる。山のように火は大きくなる。
 後ろから殴られた。そう歌は思った。それほどの強い強い風が背中から歌を追い抜く。それは一瞬で木々を折る嵐の強さに転じた。
「風弦襲」
 鴻のものと思われる声が風に混じり聞こえた。
 火の壁は一瞬で姿を消した。
 風に押されるように馬は足を早めた。振りかえれば馬車はもう見えないほどに小さくなっていった
posted by 作者 at 00:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | 翻羽翼后| edit
この記事へのコメント
12行目
>驍は眉を潜めた
→顰めた
ですかね。
和風なイメージだったので「馬車」は珍しく感じました。古い日本だと「運ぶ」には牛車か大八車しか浮かばなくて。
瑣事失礼。
Posted by すずる at 2008年03月16日 17:58
 なおしておいたわ。

 べ、べつにあんたのためじゃなくて、これから読んでくれる人の為なんだからね。

 あ、でも、ありがとう。
Posted by さんた at 2008年03月25日 20:03
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