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2008年02月23日

4 火眷

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翻羽翼后

4火眷


 屋敷は崩れていた。燃え、柱を失い屋根の重みに耐えきれなかったのだ。
 歌の周りには隙間ができていた。周りにはまだくすぶっている家だったものがある。
「おばあちゃん」
 今までならありふれていた答えはなく、沈黙だけが答えた。歌は祖母を探し家の残骸に手を伸ばした。近づけばそれは残骸などではなかった。背を刻んだ柱、沢山の人形を飾った棚、毎日の食事を共にした卓。そうした思い出の欠片だった。
「お前か」
 鋭い声におどろいてふりかえると男と思われる姿がある。男は火の中にありながら、まったく苦痛を感じないようで、歌に向かい近づいてくる。
「南家彩歌、朱雀の旗の下に降るのならばよし、降らぬのなら誅する」
 男が何をいっているかは分からない。分かるのは、ただ目の前の存在が村に火をかけたということだ。
「どうしてこんな事をしたの」
 男は掌を歌に向けた。掌の中には陽炎が踊っていた。
「焔弾」
 男の手から炎が走った。それはまっすぐに歌に向かってくる。
 炎は歌を掠め、背後の梁の残骸に触れると燃え広がり一気に燃やし尽くした。
「目はいいようだな」
 今のは何だろう。
 ぼんやりと頭に霞がかかったようだ。恐怖ではなく、むしろ他人事のように思えているのだ。
 あの炎なら火付けなどしなくても村を燃やす事など簡単な事だったろう。
 簡単。
 そうだ。自分も簡単に殺されてしまう。
「次は終わりだ」
 掌がまだ向けられている。
「炎弾」
 早くてよけれない。
 そのままでいい。ただ、その動きを目で見て。
「ぬ」
 驚いている声がした。炎は歌の周りで散っていた。
「火を友とする、火眷の血脈。まぎれもなく南家の血統だな。降る気はないか?」
 術師の問いかけには応えてはいけない。それが言質となって、力を落とすから
「少しは術師としての教えを受けているようだな。だが、これでどうだ」
 男の手が宙を舞うように動く。それに従って奇妙な文様が宙に浮かび上がる。
「祝融煌」
 走り込んであの模様を手で乱しなさい
 歌は言われた通り模様に手をぶつけるとめちゃくちゃに手を動かした。模様は細かく散って消え去った。
「二位の火も食らうのか。ならこれでどうだ」
 男は歌から走って離れた。男の口から意味の分からぬ言葉と共に両手が突き出される。
「朱炎駆」
 赤い炎の馬が現れる。馬の周りには陽炎が生じて、歪んで見える。馬の蹄の下の土が焦げついているのが見える。
 炎の馬は駆け抜けた。巨大な炎が歌に向かい走り、急速に移動する炎に空気が引き裂かれ、暴風が共に走る。
 炎が歌を通り過ぎていく。後からくる台風の如き風量に、歌の体は大きくはじき飛ばされた。
 地面に向かい叩きつけられた。どこをぶつけたかわからないくらい体が痛い。目がくらみ、涙が流れてくる。だが、その涙も周りの熱さの為か直ぐに蒸発する。でも、体中は奇妙なくらい生気が溢れていた。血の中を火が混じって流れるようだ。
「朱炎駆でも、消し炭にならずにいきているとは。だが、もう一度くらえ」
 男は再び両手を突き出した。
「朱炎駆」
 手をあげて。そして叫びなさい。
 歌は両手をあげた。
「炎帝燿伐」
歌の指先に炎が宿る。それは燃え上がるように膨れあがると形を変え、巨大な斧を思わせる形をとる。斧は周りに花びらを思わせる炎を散らしていく。
「七位だと」
 駆けてきた炎の馬に斧が触れた。馬は斧に触れると炎の勢いが弱まり小さくなっていく。それに伴い斧はより巨大になっていく。 
 斧そのものの持つ破壊の力に流されるように、歌は両手を振り下ろした。
 馬は斧の持つ力に消え去った。そして斧の振り下ろした地面は溶け、巨大な穴を開けている。先程の火事が涼しく見えるほど、周りは赤く染まっていた。
 歌ははじめて気づいた。自分もまた目の前の男同様これだけの炎に囲まれながら、何の痛みも感じていないことに。
「くっ」
 男は怯みはしたようだがまだ戦意は捨てていないようだ。
「さすがは南家の直系だ。こちらの非礼を詫びよう。都にくる気はないか?」
「昴都へ?」
「あんなでかいだけの田舎町と一緒にするな。帝のおわす祥環だ」
 自分の住む昴国が、海の向こうに住む帝に従っているのが知っていた。
「どうして?」
「自分が何者かしらないのか?」
「那賀月歌」
「違う。お前は南家彩歌。守応皇子と南家彩火の間の一粒種だ」
「お父さんとお母さん」
「何もしらずにいたのか、なら一緒にいこう。都にいけば、天孫たるものは栄光を手にする。もうここには何もないだろ」
 ここには全てがあった。何もなくしたのはこの目の前の男のためだ。
 斧は消えてしまった。
「ふざけないで」
「どちらにせよもう遅い」
 赤だけで彩られていた世界に黒い点が姿を見せた。男と同じ姿をした集団だった。
「この数ならいかに七位の炎でも抗しきれまい」
 男の背後に集団は立った。歌は逃げ場を探そうとあたりを見たが、男たちの数は多い。
 各が開いた手には少なからず陽炎が見えた。ただ一人だけ、手に刃と思われる鋭い光がある。
「その通りです。素直に抵抗を止めてください」
 淡々とした声だった。
 集団の一人が剣を抜いて男の首に刃を向けている。
「何者だ」
 そういわれ頭巾をとった顔はまだ若い。官吏によくある線の細さを感じさせる顔だが、船乗りのようによく日焼けしている。
「この地を任せられております驍ともうします。昴主の名においてあなたの行為を止めます」
「我らは帝の命において動いている。属国の命など従わぬ」
「昴主は帝より紘土の安寧を預かっております。同じ主君の命ならばそこに上下はありません」
「一人では無駄だぞ。火はきかん。男もろとも焔弾で撃ち殺してしまえ」
 驍と男に掌が向けられた。
 止めなくてはいけないと思った歌の耳元で風が吹いた。風の中で声がした。
「御曹司は俺が守るから心配すんな」
 焔弾が放たれた。
 不意に吹いた突風が焔弾を散らした。
「術師か」
「ばれたみたいだぜ。どうする?」
「是非もない」
「了解」
 驍は剣で男を殴りつけた。男は倒れ動かない。驍はそのまま歌に近づく。
「一緒にくるんだ」
「でも」
 村の人たちは置き去りになる。
「大丈夫だ」
 歌は頷いた。
 焔弾が歌と驍に迫ってきている。
「鴻」
 歌は自分を包む風を感じた。焔弾の軌跡がずれ、何もない地面を焦がすだけだ。
 四頭だての馬車が走ってくる。驍は歌と男を抱き上げた。身を堅くする歌に驍は呟く。
「行くぞ」
 馬車は二人が乗ると、一際高い鞭の音が響く。馬車の速度が速まった。
 逃げる馬車に向かい焔弾が向けられるが、先程のような風が散らしていく。
 歌の目から故郷は見る間に遠くなっていった。
posted by 作者 at 12:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 翻羽翼后| edit
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