カテゴリ

2008年02月20日

3 時合

HOME翻羽翼后 ⇒ この記事です


翻羽翼后

3時合



 辻は懐紙で刃を拭うと刀を鞘に収めた。
 体が冷たい。濡れた服は容赦なく辻の体から熱を奪っていく。
 辻は小屋に入った。
 先程の化け物。琥珀となった馬。考えることは多かったが、今は目の前の難儀が先だった。服を脱いで、絞る。囲炉裏の横に置いて乾かすつもりだった。潮を浴びた服は乾いたところで真水で洗わねば無駄なのは解っていた。真水は竹筒に入れてある水だけだ。
 明日はどこか川を見つけなくてはいけない。
 足音が遠くでした。砂を踏む音は少しづつ近くなってくる。もともとの小屋の持ち主かもしれないが、先程の事もある。辻は刀を手元に引き寄せた。
「誰かいるんですか」
 童の声だった。
「入りますよ」
 戸を開き入ってきたのはきれいな童だった。男女ともつかない美しいきれいな顔だった。ただのきれいな童ではないのは、その格好を見れば明らかだ。
 きれいな光沢を持った絹の狩衣は東慧でも見ないような質のいいものだし、腰にある刀も仕立てからして、そのあたりのものが持っているものではない。
「武家の方と思いますが、わざわざこんなところまで。やはり青鸞王の事跡を尋ねられてですか?」
「武士なのはあっている。辻という。ここは青鸞王の事跡なのはしっているが、女神を訪ねてきたんだが、伝がなくてな。心当たりがあれば教えてもらえないか?」
 童は小さく笑みを浮かべた。
 辻は自分の格好の間抜けな事を思い出した。そのような格好でこうして真顔で女神など話していれば、目の前の童が笑うのを当然だろう。
「ここにずっといらっしゃったんですか?」
 辻は頷いた。
「よくご無事でしたね。あれとお会いになられました?」
 童が知る程度にはあれは知られている物らしい。
「あの化け物か?」
「ええ。ということは撃退されたんですね」
 童は関心したようにいうと、小屋の中を見回した。
「ところで、このまま一夜を明かされますか?」
「他に場所もないのでな」
「まあ、ここで話しているのも何ですから、どうぞ。家においでください。あばらやですが、広い家に家僕と二人ですので、辻さま一人なら何迷惑にもなりませんから」
 辻は頷いた。
 濡れていなかった鹿革の長羽織を身につけた。
「すぐですから」
 そう童はいうが見たところこの辺りには家のようなものはなかった。
 外に出れば小舟が一艘、砂浜にあがっている。馬の姿はなくなっていたが、落ちた時にこぼれた血が砂に残っている。
 まだ何かあるな。
 辻は闇の中に目を向けたが見える物はない。
「こちらです」
 童はさっさと小舟に乗って、櫂をとった。
「どうぞ」
 辻は小舟にとった。見かけより童は力があるようで櫂で砂を押すと、小舟はすぐさま海に出た。
「少し寒いかもしれませんがすぐですから」
 櫂をとりながら童は調子よく腕を動かす。小舟は水の流れに乗ったようで、早く進む。
 辻には見えなかったが、砂浜の向こう側は崖のようになっており、そちらには狭いながら平地があった。
小さな船着き場があり、童はそこに小舟をつけた。
「降りてください」
 辻は言われるままに降りた。童は小舟を持つと軽く引っ張り上げて、船着き場に転がした。
「こちらです」
 平地には畑が作られていて、その向こうには石垣が作られている。
「そこが家です」
 石垣の向こうには軒の低いが、屋敷といっていい大きな家が隠れていた。木と石で作られていて、今では見かけない形で、随分と古いのは解る。
「ここは青鸞王、当時は守応皇子でらっしゃいましたけど、お泊まりになったんですよ。今でこそ、廃れてしまいましたが、昔、この辺りは琥珀がとても商いされていて」
「琥珀が」
 先程の琥珀めいたものになってしまった馬を辻は思い出した。
「さっきのことだが」
「まず中へ」
 童は中に入っていく。
 そうすると皺に顔を埋もれたような大柄な老人が寄ってくる。頭は短く刈られていて、白さが目立つ。
「お帰りなさいませ玄鷹さま」
「ただいま。こちらは、お客人だ。浜で難儀されていたのでお連れした。風呂の用意をしておいてくれ。あと、適当に服があれば。僕のだと無理だけれど、爺の若い頃のものなら着れると思うんだ」
「どうぞこちらに」
 爺は辻を案内するように手を差し出した。
「では世話になる」
 家の中は外から思ったよりも天井が高い。
「もうしわけありませんが、先に湯屋にいっていただいてよろしいですか。中に入られるよりよいと思いますので」
 爺は玄関を降りると、先に立って歩き始めた。
「いってきてください」
 童にもいわれ、辻は歩き始めた。庭の端からは白い湯気が立つ小屋が見えた。
「この辺りは所々に温泉がございまして、少し先で湧き出しているものをここまで流しているのです」
「それはすばらしいな」
 小屋の中に入ると籠が置いてある。
「こちらでどうぞ。ああ、この辺りの湯は塩を含んでおりますので、鉄のものは運ばぬほうがよいですぞ」
「ありがとう」
 そもそも湯に武器を持っていく物はいないだろう。と考えてから辻はあっさり服を脱ぎ、中に入った。
 露天になった岩風呂だった。
 辻は身を固くした。入るまで気づかなかったが湯気の中で、先客がいた。
 長い髪をしているから女と一瞬思ったが、その肩は鍛えられていて引き締まっている。無駄がない鍛えられた男の肩だ。
「いい夜だね」
 男は辻を見ると、白い歯を見せて笑った。
 
posted by 作者 at 20:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | 翻羽翼后| edit
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのTrackBack URL
http://blog.seesaa.jp/tb/85049586
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。