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2008年02月14日

2 生鉄

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翻羽翼后

2 生鉄


平地が多い昴国の中では珍しい山の多い羽端の地は、既に雪も溶け、訪れる春を待っていた。その先駆けとなる白い百合の花を手に那賀月歌は山道を歩いていた。
 もう暫くすれば百合の花でいっぱいになる山も、所々雪が残るこの時期、咲いているものはすくない。まだ、寒さが残る中、山が幾重にもなった奥から百合を持ってくることは辛いが、祖母の喜んでくれる顔を思えば苦痛ではなかった。
 百合は今年に入り具合の悪い祖母のための花だった。今まで十になる歌に負けぬほど矍鑠としていた祖母が、年をあけた頃から随分と動かぬようになった。幸い、自ら耕さぬとも、船乗りである歌の父から仕送りがあるから生活に困ることはなかった。
 しかし、身近にいる祖母が弱っていくのを見るのはいいものではない。
 そう考えていると山は終わり、村に続く丘が見える。丘を越えれば後は村まで駆け下りるだけだから、歌は足を早めた。
「何これ」
 村からは黒い煙があがっていた。
 食事時以外、村の煙りがでている事はない。まして黒い煙など見たことはなかった。
 歌は丘を駆け下りた。
 村に近づくに連れて、どこかで声が聞こえた。それは心の中の不安が作り出したものか、村に入るなと強く告げていた。
 しかし、歌は進んだ。
 歩きなれた道なのに一歩一歩進むのが恐かった。
 煙だけしか見えなかったが、近づくに連れ、数件の家に火がついているのが見えた。
 何かあったのだ。そう思いながら歌はできるだけ静かに進んだ。
 火が物を燃やす音を除けば、音という音は消えてしまっていた。
 歌は耐えきれなくなり走り始めた。家には年老いた祖母がいるのだ。
 村の中央に行くと一際大きな火の塊があった。
「こんな」
 それは自分が朝まで住んでいた屋敷だった。
 村で一番の福持ちといわれた屋敷は、大きな火の塊となっていた。
「お婆ちゃん」
 声に答えはない。
 だが、歌にははっきりと見えた。火の中にいる人の形を。
 それは縛られてでもいるのか、動きはするものの自由ではないようだ。
 助けにいかないと
 歌は門から屋敷に飛び込んだ。
 屋敷は歌の思っている以上に念入りに火がつけられたようだ。
 玄関から中に上がり込んだ。煙をすわないようにはうようにして祖母の部屋に向かう。
不思議と火は熱くなかった。
 祖母はいた。
 布団は赤く染まっていた。火の照り返しではなくて祖母の血だった。
「彩火さま」
 祖母の目には自分は映っていないようだった。今ではないどこか遠くを見ている目がはっきりした。
「お婆ちゃん」
「歌、逃げなさい」
「でも」
 祖母は首を横に振った。
「自分の命と私の命、これから長いのはどっちだい?」
「長さなんてしらない。逃げよう。今ならそんなに熱くなかった」
 祖母は小さく頬をゆるめた。
「それは違うんだよ。歌、お前はね選ばれた子なんだよ。どんな火もお前を傷つけることはない」
「どうしてそんな」
 歌は祖母が立ち上がるのを見た。一緒にきてくれると思った歌は気づかなかった。
 祖母が自分を思いっきり押した。その顔には安堵したような笑みが残っている。
「おばあちゃん」
 天井が軋んだ。上を見れば火により立っていられなくなっていた家が崩れようとしている。
「歌、東慧にいきなさい。行けばお前の」
 祖母の声は最後まもで聞こえず、家が崩れる音に飲み込まれた。
posted by 作者 at 19:33 | Comment(0) | TrackBack(1) | 翻羽翼后| edit
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