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2011年11月11日

1 少女

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 街道は延びていた。
 東国の広い緑の中にあって、街道はかすり傷のような小さなものだ。しかし、それは紛れもなく人が作り上げた証だった。
 だが、この樹海に近い道は、行き交う人もなく、歩くのはただ一人の少女だけだ。
 南家彩火とその名はいった。夕日を思わせる色の小袖に、薄絹の飾りのついた笠。この地にはあわない都の貴族の女のものだ。
「おい」
 立ちふさがるように現れたのは汗とほこりにまみれた男だった。
 彩火は宿を借りた村できいた話を思い出した。
『山賊が出る旅はおやめなされ』
 女の旅を止めるためにどこでもきいたものだから、今回もそうだと思っていたが、真実であったようだ。
「逃げれると思うなよ」
 少女の背後からも男が二人現れる。北山道と名がつくものの広い道ではない。そうすれば逃げ道は森の中だけだ。
 彩火は男達を見た。
 男たちはにやついていた。自分のようなものは、男たちのような生業をするものにとっては良い獲物だろう。
 男は彩火の笠をあげた。
「べっぴんじゃねえか。髪がひでえからとんでもねえのかと思ったぜ」
 彩火は少しばかり眉をしかめた。彩火の髪は赤毛で細いので痛みやすく首筋程までしかない。
「ねえさんどこにいくんだい?」
「それを知るためにも聞きたいことがある」
 彩火は低い声で言った。
「ねえちゃん、人にものを聞くにして頭が高くねえか? 出すもの出せば教えてやるぜ」
 少女は黙って懐から取り出した銀銭を男に向かい放った。男は銀銭を拾い上げると本物か試すように噛んだ。
「かあ、本物の銀じゃねえか」 
「ではきかせて貰おうか。女が通らなかったか。名は蒼施。年の頃は十六、七。女しては背が高く、男の身形かもしれない」
 銀銭が本物とわかりにやつく男は言った。
「これっぽっちじゃ駄目だな」
「何枚欲しい」
 そう言っている間に少女の後ろに男の一人が回りこんでいる。
「全部もらっておこうか」
 彩火の背後から男が襲い掛かるが、その体は直ぐに固まり、後ずさった。
 男の手は焦げ付いていた。
「こいつなんか仕込んでやがる」
 男たちの中で悪意が牙を向いた。
「ちょっと相手して貰って生かしてやろうと思ったが仲間をやられたとあっちゃひけねえな」
 彩火に向かい男たちが殴り掛かる。突っ込んできた男の足を引っ掛け倒した。
「その銭で商売でも始める事だ」
 彩火ははき捨てるように言った。
「待ちやがれ」
 男の一人が立ち上がり刀を抜いている。
「死にやがれ」
「あほうをつくす気か」
 少女の身体からゆらゆらと陽炎が見える。陽炎は少女の突き出した掌に集まる。
「焔弾」
 少女の手から飛び出した焔が男の身体を掠る。炎のあたった枯れ木が一瞬で消し炭となる横で男は腰を抜かしていた。立ち上がる事ができず男は少女を見つめる。
「・・・・化け物が」
 倒れた男は震える声で言った。
「その化け物がいう。今度同じようなまねをしたら消し炭になることになる。私はどこでも見ているぞ」
 男は顔を地面に押し付けるように頷いた。
 彩火は何事もなかったかのように歩き始めた。
 だが、それもほんの数歩の事。
 見られている。
 彩火は視線に気付いた。
 相手が何者かは分からない。だが、そのまなざしには強い意志を感じた。
 幸い殺気ではないが、一端事が始まれば、全てを壊すような鋭い物だ。
 彩火は立ち止まった。
 どこかにいる相手に向かいにらみつけるように目に力を込めた。
 誰が相手であれ蒼施を先に捕らえるのは自分だと意思を込めて。
posted by 作者 at 11:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | 彩火北行| edit
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